レイ・ブラッドベリ著 伊藤典夫訳 『華氏451度』新訳版 を読んで。
レイ・ブラッドベリが33歳、1953年の作品です。
私の大好きなNHKの番組『100分で名著』で知り、気になっていました。
本が悪とされる未来。昇火士という本を焼く専門職ができています。
本は人の心を惑わせ、精神に悪影響を与えるという考えです。
「ペンは剣よりも強し」ということわざがあるように、言葉の力は偉大で
権力者はその影響力を恐れます。
主人公モンターグは昇火士として愉しく本を焼いていましたが、
ある時、本とともにおばあさんが焼かれてしまう仕事現場に立ち会います。
そのおばあさんは本を守っていました。
そこから、モンターグは「本人は何かがある」と感じ始めます。
10年間、昇火士をしていたようなので10年間も何も思わなかったのかと突っ込みたくなるところもあります。
妻との関係も良くなく、妻は現代でいえばスマホ中毒者のようにメディア依存しています。そして不眠症で、睡眠薬を大量内服したりします。家庭内は崩壊しています。
モンターグは職場でちょいちょい本をくすねており、家に隠しています。
それがばれて、今度はモンターグの家が焼かれます。
モンターグはブチ切れ、家を焼いた上司の復讐を考えます。
全体的にはとても荒っぽいプロットで、モンターグの精神不安定っぷりも目立ちます。
家庭内の不和や職場での疑問(自分の仕事の意義は?)というのを抱えて苦しんでいる姿があります。
本にその救いを求めているような気がします。
なにか人生のヒントがあるのではないかと。
私が印象深かったのは、モンターグが最後に救いを求めてたどり着いた
スローライフを送っている人達の集団です。
焚火を囲み、よりはみんなで集まり語りあっています。
自分もキャンプをよくするので、焚火を囲みゆっくりした時間を過ごす楽しさがすごくわかります。
言葉だけでの人とのやりとり。よくしゃべる人もしゃべらない人も焚火を中心にして集まります。あの幸福感は理屈ではわかりません。
SNSやメディアは周りにたくさんあるのに孤独を感じるという現代社会の病気。
本書は本の価値について語っているというよりも、そういったことを伝えている気がします。
人と人が直接つながる心地よさを再認識させてくれる作品でした。
ストーリーはかなりゆるゆるな感じがありますが、それはそれで印象に残ります。