漢方診療をしていて新たな発見や新しいものの見方ができるようになると面白いです。
漢方専門誌に『漢方の臨床』という月刊誌があり、愛読しています。
名医と言われる先生方が症例解説をしておられ、そこに珠玉のフレーズが隠されていることがありそれを見つけるのがひそかな楽しみとなっています。
そこに「腎虚とはエンジン不良」というのがありました。
このフレーズは臨床実感とかなり近いため、おおそういう風に考えればいいのか!と
自分の臨床レベルがまた一段と上がったようでうれしくなりました。
腎虚とは東洋医学の概念であり、老人や虚弱児のイメージで語られます。
そして八味地黄丸が代表的処方としてよく出現します。
八味地黄丸周辺の処方として六味丸や牛車腎気丸も登場します。
腎虚の症状としては健忘や倦怠感、難聴・耳鳴り、腰痛、下肢筋力低下など高齢者の症状として説明されます。
しかしこれらはほんの一部の症状であり、もっと腎虚は奥深く、様々な疾患のベースになっているのではないかと考えるようになりました。
漢方では気血水を大切にします。しかし腎虚をうまく表現することができません。
臨床で腎虚を感じる時は、小児の便秘や頻尿、疲れやすい体質、青・少年期の適応障害、睡眠障害などです。
精神の不安定さはその結果として出てきますが根本的な問題ではないようです。
人間の生理機能(排便・排尿・腸管運動・睡眠・体温維持・発汗)低下が主ではないかと。
まさにエンジン不良です。
先天的であれば積んであるエンジンがもともと弱いのであり、
年をとればエンジンが古くなってくるというイメージです。
エンジンが悪いので、いくらガソリンをハイオクにしたりハイブリットにしても体調がよくなりません。
エンジンを治すか取り換えるかしないといけないのです。
私はそのカギとなる処方は桂枝湯だと思うようになりました。
桂枝湯の発展形に小建中湯があります。
子供によく効くのです。
うちの子供は特に病気がちなわけではなく、メンタルも安定している(と思っている)と思いますが便秘がひどく困っていました。硬くて、出血をして半泣きで排便することもありました。
虚弱児とは程遠く、まるまるとしています。食事も同年代の子よりも1.5倍は食べます。
ただ腹筋が弱くキューピーみたいな体系です。
小建中湯を飲み始めて便秘がよくなり私が驚きました。
小建中湯でエンジンが活性化して、排便がスムーズにいったようです。
エンジンが悪いというと、母親は自分を責めてしまうかもしれませんが決してそうではないと思います。妊娠中の何かが影響したということではないと思います。
もともとの遺伝子的な虚弱性があるのではないか。それこそ体質です。
中年ともなると、時々自分のエンジンがプスプスと不良となっている感覚があります。
中年の危機にも小建中湯は使えるかもしれないと、近頃考えるようになりました。
40年も生きているとエンジンも古くなってきます。時々メンテナンスは必要なのでしょう。
漢方薬は今ある処方をいかにうまく使うか。
ムフフと楽しみながら診療をしています。