久坂部羊さんは大好きな作家で、新刊です。
テーマは高齢者介護です。
高齢者医療については延命治療の事など社会的テーマとなる事が多いですが
高齢者介護に関してはまだまだテーマとして上がる事は少ないです。
内容は物凄くリアルです。
小説という手法だから書く事が出来るとも言えます。
小説は架空の人物を登場させる事で、その人物に全ての責任を負わせる事ができます。
なかには作者の思想を代弁している場合もあるでしょう。
あるいは、みんなが思っているけど言えない事を主人公に言ってもらったり、
してもらったりする場合もあるでしょう。
私は医療小説が好きです。
久坂部さんの小説は現場では大きな問題となっているけど、
世間がまだ社会問題として捉えていない事を書いています。
現場にいると、毎日悩まされる内容です。
介護士が自分の介護の意味についても分からなくなるのです。
それは私達医師も同様で、救う事が苦しみを生むという場合があります。
もう死にたいと望む高齢者にどう対峙すればいいのか。
主人公は21歳の介護士です。
純粋な心を持っています。
毎日心の苦しみを訴える高齢者と接しているうちにいい事と悪い事が分からなくなってきます。
自分がしている介護自体が虐待ではないのかと。
小説内に虐待が起きない介護施設が二ヶ所出てきます。
ひとつは宗教的な慈悲の精神で営まれているところで
もう一つは高級老人ホームで人件費にお金をかけているところです。
純粋な心をもつ人ほど、正義感が強い人ほど悩むんだと思います。
虐待している側は虐待しているという認識がないものです。
外部から見ると異様であっても、毎日その場にいると当たり前になってきます。
今年、11月30日が「人生会議の日」になりました。
厚生労働省も真剣に取り組んでいます。
どこまでの医療を受けたいかに加えて、どこまでの介護を受けたいかも決める時代がいよいよ来たのです。