前回のコラム⑰で 無駄な医療費 ~入院編~ を書きました。
入院が必要な人は多いけど、退院ができない(自宅の介護力がない)事が入院医療費を押し上げているという話でした。
今回は薬について考えてみたいと思います。
H29年度の医療費(医療機関に支払われた総額)は42.2兆円です。
↓ 詳しくは 厚生労働省の資料にあります。
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000177608.pdf
2017年度の医療用医薬品の市場が10兆5000億円です。
つまり、製薬企業が薬を売った時の売り上げということです。
日本最大手は武田です。
1位は抗がん剤のアバスチンで、1142億円。
2位は抗潰瘍薬のネキシウムで、1019億円。
3位は免疫療法薬のオプジーボで、1002億円。
↓ 詳しく知りたい方はこちらから どうぞ
https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/60594/Default.aspx
ここ10年で大きく変化があったと感じる薬はC型肝炎治療薬です。
C型肝炎が治る病気となりました。
しかしここ10年でもうひとつ、問題となってきたことがあります。それは
「薬の飲みすぎ」問題
専門用語ではポリファーマシーといいます。
処方箋は医師しか出せません。
なんでこんなにたくさん薬を出してしまうのか?
医療行動経済学が関係しています。
必ずしも論理的な判断で処方されているわけではないという事を、
患者側も知る必要があります。
お金儲けのために出しているという事もありません。
なぜなら、薬の売り上げは全く医師の収入とは関係ないからです。
ただし、処方箋発行料は医師の収入になりますので、
「薬を出す」というインセンティブにはなります。
私は入院医療をしていますので、
入院される時に、膨大な量の薬を持参し、入院してくる方も少なくありません。
入院される方の10%は薬の副作用と過剰投薬が原因となっていると思います。
せっかく入院したので、入院中に不要と考える薬を中止します。
胃薬は本当に胃薬か
特に問題と思うのが胃薬です。
胃薬という言葉良くないと思います。
胃に効く薬という意味では正しいのですが、胃酸を抑えるので消化不良となります。
高齢者が飲むとどうなるでしょうか?
ただでさえ、消化吸収能力が落ちているとことに、
胃酸を抑えてさらに消化が悪くなるのです。
ただ胃潰瘍には絶大な効果をがあるため、とてもいい薬です。
薬に罪はありません。
使い方がちょっと問題だと思います。
そしてとても高いために、医療費も押し上げます。
医師の思考傾向としては、「なんとかしてあげたい」という善意です。
こちらから、勧める事はありません。
患者さんから 「なんとかして」と言われるので出します。
「じゃあ、胃薬出しておきますね」 と言われます。
こうして、胃薬が延々と出されていくという問題があります。
そしてもっと問題なのが 「出口戦略がない」という事です。
中止基準がないという事です。
開始基準はあるけど、中止基準がないので
「いったん始めたら、やめられない」わけです。
医療者側も善意でしているので、やっかいです。
薬剤費問題は行動経済学的な視点と構造的な問題とを考えないといけません。
患者さんは医師を信頼しているため
良識ある、処方行動を医師側がとらないといけないと思います。
多剤服薬問題は医師の倫理問題でもあるのです。