早見和真さんの「イノセント・デイズ」を読んで。
完全ネタばれ記事ですので、これから読まれる方は気をつけてください。
ジャンルとしてはざっくりいえばミステリーですが
「社会への問題提起型」かと思います。
問題提起とは、「不特定多数の人の見えない力」や「物語」、「悪意のない嘘」でいかに個人が破壊されるかということです。
田中幸乃という30歳の女性が死刑判決を受けるところから始まります。
恋人への逆恨みから放火をし、罪のない人を殺した罪です。
状況証拠や動機、本人が否定していない、罪を受け入れているという事から
田中幸乃が犯人であると誰もが疑いません。
自白させられたわけでもなし。
動機もごもっともなものがある。
過去も暴かれますが、いかにも怨恨で殺人をしそうという物語を作られます。
しかし、友人や田中幸乃の事を深く知っている人達は疑います。
真犯人がいるのですが、田中幸乃は罪を受け入れています。
そこが「なぜ」なのか?
ここがこの小説のポイントだと思います。
通常の感覚ではないのです。
少女時代の話が出てきますが、普通の女の子です。だから、もともと変わった子ではありません。
10代から20代前半にかけて、心に大きな傷を負ってしまった事が原因なのです。
同級生からはいじめられ、彼氏からは暴力を振るわれます。
それでも、反抗をすることなくそれが「自分の役割」だと思っています。
純粋・無垢=イノセント なのです。
自分が犠牲になることで、助かる人がいるという事にとても敏感です。
中学時代に友人の犯罪の罪を自ら被るエピソードが出てきます。
友人は無罪放免となりますが、頼られる事で本人は満足しています。
「人に捨てられる」よりも「罪をかぶる」方を取る人がいる。
たとえそれが死刑であったとしても。
他人の罪を被ることが「存在価値」となっている人たちがいるという事を知らしめてくれた小説です。
「罪を被せる人」と「罪を被る人」。
罪を被せる人にならないように努力をしないといけないなと思います。
自分の知らないところで罪を被ってくれた人がいたんじゃないかと思わせられる小説でした。