10冊目はデフォー作 鈴木建三訳 「ロビンソン・クルーソー」です。
- 作者: ダニエルデフォー,Daniel Defoe,鈴木建三
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1995/03/01
- メディア: 文庫
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無人島に漂流し、27年間生き抜きます。児童向けにアレンジされた物語は冒険もの、少年の心を刺激して冒険へと突き動かす力がある小説です。
しかし原作を読むと、単純な冒険ものとして読み物よりも、西欧人の宗教観・他民族をどうみているかということが見えてきます。そしてどういったことが倫理であり、どういったことが幸せであるのかということが読み解かれてきます。そこが非常におもしろいです。
時代背景は1600年代後半のイギリスです。清教徒革命→王政復古→名誉革命の直後に書かれています。クルーソーは父から「もっとも幸せなのは中流階級なのだ」と教えられます。「人生の災厄は上流階級と下層階級のものだけが経験する」という言葉が出てきます。清教徒として、神を信じ清く正しく生きることが幸せなのだと。
クルーソーは反発します。「つまらぬ」と。そして船乗りになります。そこから冒険が始まります。猛獣と戦ったり、蛮人と遭遇したりといったスピルバーグ級のストーリー展開です。そして最終的に無人島です。無人島ですが時々漂流民や近くの蛮人がやってきます。
クルーソーはスペイン人と人食い人種におびえます。そのころのイギリス人の敵はスペイン人と異民族だったのでしょう。宗教などまったく信じていないクルーソーが次第に神を信じるようになっていきます。
自分が一人だけ生き残ったのはなぜか?無人島なのに食糧が豊富にあるのはなにか意味があるのではないか?危険な目にあっても、その中でいくどとなく奇跡がおきるのは誰かの意思があるのではないか? などなど。体験として神を信じていきます。
そして面白いのが、漂着した蛮人にキリスト教を強制していきます。まったくの善意からです。ここが日本人感覚とかなり離れているところだと感じます。
さらにクルーソーは自らの心で敵をつくり、漂流してきた異国人を「やられる前にやる」で殺害していきます。異国人はクルーソーに危害を加えたわけではありません。自分が助かるために相手を殺すのです。考え方は合理的で、理屈をこねます。時代背景のためか、西欧人の合理主義にともなうものなのかはわかりません。読んでいて、共感はできませんでした。
そんなクルーソーも蛮人をキリスト教へ改宗させ奴隷として雇い島から脱出します。無人島へ流れつく前の不動産から相当な利益がでており、それを一気に受け取ります。上流階級です。そして、その資産を守るためにはどうしたらいいか悩み、不安になります。必要最低限のなかで暮らすほうが幸せであったと感じます。幸せと成功(社会一般で言われているお金・地位・名誉)は結び付かないということを悟ります。そして父がいっていたことは本当だと。
ロビンソン・クルーソーは若者の成長物語でもありながら、人生訓を教えてくれる側面があります。近代イギリス小説のはじまりでもあり、日本でいえば夏目漱石的な位置かなと思います。